松井春澄×鹿児島・指宿酒造社長・南荒生さん(その2)
南社長:
いやいや、でも生きている間にもう一度あるかないかっていうぐらいの確率。
松井春澄:
でもそれはその味をずっと続けてですよね。
南社長:
そうですね。ただね、焼酎は生き物ですから微妙に変わるんですね。原料の出来具合いでも変わりますし。だけど味は毎年新酒だけで出してるという事はなくて、前年の焼酎をとっておいて新しい焼酎とブレンドして出してますからね、そんなに味のぶれは無いと思うんですが。でもやっぱり新酒100%で作った物で、昨年と今年のを見比べたら違いますね。
松井春澄:
出荷量も原料の出来で全然違いますか?。
南社長:
生産量はお陰さまで昨年今年と、また今年が大豊作だったんですけど、予定どおり作れています。例の焼酎ブームですごい時は、引き合いがすごいあって、それでいて芋の出来が悪かったんですね。なので品物が中々無かったという状態でした。今は安定しています。
あの時は出荷規制をしましたが、蔵元によっても在庫等の関係で違うと思いますが、うちの場合は3割しか出来なかったです。
うちだけじゃなくて、みんなそうでしたね。全国からばーって引き合いがあって、勿論そのつもりでいたんですが、偶々その年は収穫と作柄両方とも駄目で、結局使える芋が無くなっちゃった。だから冷凍芋がどうとか言う所もありましたよね。
松井春澄:
南社長の所は全部指宿のお芋ですよね。契約している所はあるんですか。
南社長:
そうです。全部指宿産です。芋どころですから、それこそ利右衛門さんがいた所ですから、芋は他の蔵に比べば比較的安定していると思います。うちは地元の大きな仲買さんが2人いて、その人たちが契約している農家の方から芋を買っている訳です。必ず納品する物に農家の人の名前がついて来ます。大体毎年いい畑の物は決まってますよね。品種は主一部紅薩摩も使いますが、主に黄金千貫を使っています。
松井春澄:
日本全国、県外だとどこが一番出荷する所が多いんですか。
南社長:
今はやっぱり東京、関西ですよね。一番は以前は大阪だったんですけど、今は東京が抜きました。焼酎の消費量としても、4、5年前までは勿論鹿児島が一番だったんですが、今では東京が一番ですもんね。やっぱりそれだけ大都会は胃袋の数が違います。(笑)
松井春澄:
飲食で飲まれている量が多いんですか。家庭で飲むというよりは。
南社長:
そうですね。本当に根付くという意味では、夜の晩酌にご家庭で飲んでいただけると、われわれ作り手としてもとても嬉しいんです。実際うちで一升瓶とか紙パックのも一部作っているんですが、その引き合いが来ているという事は多分ご家庭の食卓にも入って行っているんじゃないかなと思うんですね。業務店さんなんかだと4合5合ですから。でもまだまだですよね。
松井春澄:
鹿児島の家庭の晩酌は焼酎ですよね。
南社長:
焼酎です。お湯割りか、水割りも最近飲む方がいらっしゃいますけど、夏みたいに暑ければ最初はビールで、後は焼酎ですね。焼酎からいきなり入る方も居ますけどね。
松井春澄:
はい。私みたいに(笑)もうビール飲まないで。
南社長:
松井さんには本当に感謝しています。本当に焼酎のパイオニアですから。
飲食店に松井さんみたいな方が紹介していった事で広まった。それはかなりあると思います。こういうスペシャリストの方がこういう話をしてくれるって言う事が一番影響ありますからね。有難いですよ。本当は広報から宣伝料を払わないといけないぐらい。宣伝部長ですよ。
松井春澄:
南社長にももう何年か飲食店をやって欲しいんですよ。ご子息も2人もいらっしゃいますし。
南社長:
いやいや、まだまだですよ。
売るにしたって焼酎は実は関東から北、東北とか北海道とかでは弱いんですよね。元々甲類市場、勿論日本酒市場なんです。でも引き合いは結構あるんです。ただうちのような小さな所は流通とか、配送システム、配送コストが結構大変で。そこら辺りを何とかクリア出来れば東北とか北海道でにも伸びて行く余地はあるんじゃないかなっていうのはあります。鹿児島県の酒蔵組合でもそんな話をしてますしね。
松井春澄:
今後、生産量を増やす予定ってあるんですか?。
南社長:
僕の所はそのつもりは無いんです。今作っている量をきっちりやる。やっぱり増やすとなると原料の確保とか、色んな意味で無理が出て来ますし。出来ない事は無いと思うんですが、やっぱりいいもの、ちゃんとした物となりますとね。
中国米の事件は他人事じゃなかったです。別に弁護する訳じゃないですけど、いくら安かろうが彼らもそういう事が分かっていたら絶対使わないでしょうし、ある意味被害者ですからね。今うちでは組合からのお米が殆どです。組合以外からもお米を買っているんですが、うちの場合純国産のマイナリーワンという特殊な品種で、むしろ高い、いいお米を使ってるんですよ。だからそんなに心配はしてないんですが、我々にしてもその可能性は無きにしも非ずです。それにしてもあれは中国産がいつの間にか国産米になっていて、酷い話ですよね。
松井春澄:
本当に、何を信用していいか分からないですよね。
南社長:
そもそも汚染米とか事故米とかあの辺を農水省の方が買ってたっていう事がもうおかしいんですよね。93年でしたかね、冷夏でお米が穫れなくて政府が緊急としてアジア各国からお米を輸入して、都合のいい
時ばっかりじゃ駄目だってそれからずっと輸入してたんですね。それで国は国で減反減反で。我々も93年以前は国産の屑米を使っていたんですよ。ところが国の方からの要請があって、それ以後はずっとタイ米を使うようになったんです。でも、タイ米を使うのは実はメリットがあって、すごく作り易いんです。固くって、その分2度蒸ししたり手間は掛かりますが、くっつかないんですね。国内のお米って水分が多くて、食べる分には美味しいんですが、蒸すと固まっちゃうんです。以前は国産のお米でやっていた訳ですから当然出来ない事は無いんですけどね。原料は本当に大事ですね。
松井春澄:
こだわりはそこですね。
南社長:
そうですね、うちはISOを県内の酒造会社では最初にとったんですよ。環境方針という事です。一応食品だという事で、安全と周りの環境と気配りしようという事ですね。あれを取るのは大変なんですよ。毎年審査があって更新しなきゃならないですし、社内的にかなり負荷があるんですけど、今となってみればやってよかったですよ。
酒蔵メーカーでISOを持っているところはないです。本当に大変ですもよ。例えば工場内で使う洗剤がありますよね、そういうのまで全部成分を調べて、環境に悪い物は全て使うのを止めてしまったんです。本当に大変でした。でも、結果として会社全体皆の意識が変わって来て、色んな、事故という程ではないですが、未然に防ぐ事もありましたね。
松井春澄:
意識が高まるんですね。
南社長:
そうです。そういう事です。取引先の業者さんにも協力をお願いしています。そういう事をやっていると少しづつ皆の意識が変わって来て、起らなくてもいい様な事も前もって防止出来るんじゃないかなって。それこそここ最近食品に関して、雪印の問題とか色々あったじゃないですか、いくら蒸留酒といえども食品ですから、口に入る物ですからね。味だけじゃなく、安全性だとかそこらへんの意識はしっかり持とうって今取り組んでいるんですね。
松井春澄:
新しいブランドなんかは今お考えですか。作る時ってどうやって作るんでしょうか。
南社長:
一番特徴を出すのは原料を変える事です。芋によってかなり風味が変わって来ますからね。例えば今紅薩摩を使って、例の篤姫にあやかって、「和泉篤姫」という形でスポットで出しています。これが結構味が好評なんですよ。でも篤姫ブームの方も、大河ドラマが終われば自然と収まって来てしまいますから。色んな引き合いも来てますし、新しい銘柄で利右衛門のレギュラーの中に入れようかって、今それを思案中なんです。
松井春澄:
そういうオファーがあるから考える場合と、実際面白い違ったテイストが出来たのでレギュラーで新しいブランドを作るっていう2つの作り方があるように思うんですがどうでしょうか。
南社長:
そうですね。でもまあ私は、今あるレギュラーをしっかりまず地元の皆様に愛飲してもらう、これがやっぱり基本にあるんですね。県外のお客さんはプラスアルファなんです。飲んでいただけるならもう有難いという所でね。やっぱり地元の人に飲んでもらうっていう事が僕は一番かなと思っているんですね。
うちは指宿の蔵ですから、やっぱり指宿のシェアが高くて、大体3、4割が県外ですね。鹿児島県内っていうのはもう飽和状態で、皆さん売り上げを伸ばしているのは県外の部分です。鹿児島に本社がある、地元の南九州酒販と言う業者さんを通じて出荷しています。
松井春澄:
直接東京の販売店さんとお話する事はあまりされないんですか。
南社長:
昔はありました。本当にこの焼酎ブームが全然ない頃に、本当に有難い事ですが、おたくの焼酎が飲みたいというお客さんがいらっしゃれば、神田辺りの居酒屋さんとか挨拶をしに行ったりしていたんですけど、やっぱり限界があるんですよね。焼酎ブームがあっても、未だにそういうお客さんとは、今までお世話になった歴史もあるしずっとお付き合いをさせていただいてますが、それ以外は中々手がまわらず南九州酒販さんにお願いしています。
松井春澄:
最初南青山にあるマルっていう居酒屋さんに内藤商店さんから南社長の所の焼酎を下ろしていて、南社長をマルにお連れした時に、オーナーがすごく喜んだんですね。それで直接入れさせてくれって。また偶々内藤商店の方が配達に来たり。
南社長:
その節は色々お世話になりました。(笑)
松井春澄:
森さんの所に一升瓶の「篤姫」も置いてありましたよ。すすめるとみんな美味しいって飲んでくれるんですよってカウンターの料理長も言ってました。
飲食と焼酎のお仕事の割合ってどれぐらいなんですか。
南社長:
半々ぐらいですね。それに全く関係のない事ではないですし。焼酎の方は色んな蔵本さんが集まってできた会社なので、やっぱり責任の度合いが違うんですよね。全く自分だけの私企業ではなくて、お預かりしている会社っていう意味もありますからね。長寿庵の方は今は女将に任せている状態です。
松井春澄:
すっごい素敵な方ですよね。もう女将の鑑みたいな。海外はどうですか。
南社長:
今色んな所を通じて海外からも引き合いがありますよ。ニューヨークへ行っている知人が以前、焼酎だけじゃなく日本酒とか、日本のお酒の試飲会をやって大盛況だったらしいんですね。それでまたむこうで焼酎の試飲会をやりたいから、是非話を聞いて欲しいなんていう話もあります。県の方も考えているみたいです。
松井春澄:
どんどんそうやって根付かせて行きたいですね。日本酒は海外でもう大分根付いて来てますし。
南社長:
そうなったら夢が広がりますよね。それこそフランスのシラク大統領なんか芋焼酎の大ファンですから。うちもシラクさんがパーティーに来た時に焼酎を送ってくれって言われて、何回か送った事がありますよ。
松井春澄:
息子さんに将来は蔵元がやる焼酎の方を海外でやって貰いたいんですよ。お手伝いします。
南社長の今後の夢は何ですか。焼酎でやりたい事とか。
南社長:
今鹿児島に百数十社あって、焼酎ブームで全国区になれたんですけど色んな弊害が出て来てるんですね。以前松井さんにお話しした事があるんですけど、それこそフランスのワインみたいに、小さい大きい関係なく蔵が土地土地に根付いたああいう世界が、鹿児島でも出来たらいいなぁって言うのが僕の夢ですね。焼酎の場合はブドウ畑ならぬ芋畑もありますし、芋を作っている所を見てみたいと言わればお連れしたっていいんですね。
奄美へ行けば黒糖焼酎があるし、沖縄へ行けば沖縄のお酒があります。地域がしっかり結びついて、観光に来て下さったお客さんに地元の食材、焼酎を飲んでいただく。指宿には利右衛門があったり他にもありますし、そういう焼酎をまずは飲んでくれる地元の人がいて、で外から来ていただいた方にはそれを飲んでいただいて、というような感じですよね。
まだまだ皆バラバラなんですよ。勿論皆さん企業ですから分からなくも無いんです。でも例えば、今は大きいアルコールメーカーさんも大体芋焼酎を出しているんですけど、そうするとただ売れればいいっていうような、いわゆる市場原理みたいに変な競争になってしまって、せっかく地域に根付いているのに埋没してしまうんじゃないかなって。それが心配なんですね。
松井春澄:
なかなか個性を守りながら売れるって難しい事なんですね。
南社長
本当に難しいと思います。ですから、逆に作り手側がきちっとした物をね、蔵々で規模も作り方も違いますから、それを個性として大事にして行けばいいんじゃないかなって思います。
松井春澄:
それは素晴らしいですね。フランスなんかも十年ぐらい前に行ったらバラバラで、小さいワインの蔵々が一杯あったんですけど、今はもう町で一体化して、何か相乗効果になってますもんね。
あと、飲食の方は?
南社長:
飲食ですか、消極的…じゃ無い、(笑)きっちり守って行ければいいなと。あとは息子達が帰って来てどう展開するか。
飲食の事とか松井さんから色々なお話を聞かせていただいて、なるほどなあっていつも勉強させてもらってますし。まあ指宿が中心ですから、色んな業態で彼らが出来る範囲でやってくれたらね。例えば焼酎の立ち飲みとか。
松井春澄:
規模は大きく無くても構わないんですよね。小さい坪でも、個店の匂いを感じる店作りをされるといいと思います。やっぱり焼酎の蔵っていうバックボーンがあって、実際お店を何十年もやられてるっていうのが有りますから。それを若い方達が焼き直してやってくれるっていうのが私の夢ですね。
南社長:
松井さんのそのお陰で色んな方と知り合えて。本当びっくりしますよ。
松井春澄
いえいえ。南社長、今日は本当に有り難うございました。
南社長
いやこんな話で良かったんでしょうか。まあ、百聞は一見に如かずですから、お時間つくって、また是非のんびり鹿児島へ遊びに来て下さい。黒豚も鹿児島ラーメンも、温泉もありますしね。うちに泊まってもいいですしね。
松井春澄
また朝まで飲んで。(笑)
南社長
お酒ネットワークですね。(笑)
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