松井春澄×五反田の酒屋「内藤商店」の東條晃一さん(その2)
東條晃一さん:
そんなに難しい話ではないんです。持って生まれて環境を生かしただけなんですね。
たとえば家が大工なら大工になってるし、なれるか分からないですけど、医者だったら医者になっていたと思います。家業を継げば、ゼロからやるよりももっといい事が出来る。
これをやっていなかったら本当は家具をつくる仕事をしたかったんです。物を作る仕事ってとっても魅力的だと思うんですね。でも売る仕事も、作る仕事と同じ位職人的な所があるんですよ。今もお客さんとお話ししてて面白いですよ。大変ですけど。
松井春澄:
業務店さんはどれくらい入れているんですか。
東條晃一さん:
ちゃんと取引している所は40ぐらいですね。僕たちは自分たちの出来る範囲を決めているんです。こういう仕事をしていると、売り上げを伸ばしてお店を大きくする事って、一見いい事のような感じがするんだけど、それって違うんだなって。酒蔵からから学んだんですけど、自分たちのクオリティを落としたら意味が無いんです。仕事って売り上げだけじゃないし、やりがいだけでもない。
たとえば配達も15分ぐらいの範囲でしかしないんですね。というのは、実際お店にきて欲しいからなんです。勿論電話やメールもします。でもインターネットや本で見るのと、実際に会って、物を見てもらうのとは全然違うんですね。
松井春澄:
お酒に限った話ではないですが、生産者に実際会って顔を見ると、物に対する想いも変わるし扱い方も変わりますよね。
東條晃一さん:
それは何でも一緒ですね。
お店屋さんが全部の生産者を回れない代わりに、僕たちが生産者さんの所を回っているんです。その時にいつも思うのは、物って作っている人の想いが出るんだなあって。で、その同じパッションの物と人をつなげると、物も人も生きるんです。
松井春澄:
私もそうだけど、生産者の想いを見てるから、それがお店でどういう扱いをされているのかが凄く気になります。そこを理解している酒屋さんって、なかなかいませんよ。
東條晃一さん:
あまりそんな大した事ではなくて、ただ作っている人の想いを知っているからあんまり乱暴には売りたくないなって、それだけなんです。それに手間をとられ過ぎている気もしますが。(苦笑)
松井春澄:
今って若い人がお酒を飲む量が減ってきていますよね。
東條晃一さん:
世界的な流れとして、お酒の飲まれている国でもアルコール度数が下がってきています。理由はよく分かりません。以前、有機ワインを作っているニコラ・ジュリという方とお会いしてお話ししたのですが、その方はルドルフ・シュタイナーという思想家の理論を元にしたワイン作りをされているんですね。月の満ち欠けを考慮して種を蒔いたり収穫の時期を決めたりするのですが、確かにそういった世界全体の大きな流れのような物はあるのだと思います。実際国や文化に関係なく、同じ時代には同じようなお酒のテイストがあるんです。僕達に出来るのは、その潮流に合わせながら、でもいい物を広め残していく事なんだと思ます。
松井春澄:
二十代の人とか、夜カフェなどではお酒を飲むそうですよ。安いお酒よりもきちんとしたお酒が好きみたいですし、飲まない訳ではなく、舌が肥えてきているのかも知れませんね。
東條晃一さん:
それはあると思います。むしろ若い人の方が味のジャッジが正確です。飲む量というよりお酒の飲み方が変わってきているのかも知れないですね。僕達がお酒を売るに当たって気にしているのは、味と値段のバランスなんです。うちの店にみえる若い人はベンチマークをお持ちの方が多い気がしますね。ジャケットも気にしないですし。
松井春澄:
外で飲むより家で飲む人が多いのかも知れないです。飲食店で飲むより酒屋さんで買って家で飲む方が安いですし。バブルの前と後の世代ではお金の使い方が違うように感じますね。
東條晃一さん:
確かに若い方の方が量的にはそれ程飲みませんし、飲み方は綺麗な気がします。うちは店売りが六割で、普通の酒屋さんとは逆なんです。お店は勿論の事、一般のお客さんも大事にしているんですが、OLさんとか、うちまでわざわざ足を運んで下さる若い人は少なくないですよ。
どうしてうちは店売りが多いかと言うと、飲食店の人が築地に野菜とかお魚を買いに行くような感じでうちに来てくれるんですね。またここは毎日普通に飲むのがあるから、今日はこんな食材があるんだけどとか聞いて頂ければ、これこれがいいとお勧め出来るんです。
松井春澄:
個店は想いがあって売るし、だから勧められる。その辺りの違いなんでしょうね。
東條晃一さん:
いずれにしても遅かれ早かれ酒造は淘汰されていくと思います。飲む人と飲まない人、お酒の趣向性がはっきりしてきてるように感じますし。戦後の作れば作る時代は終わって、お店でも酒造さんでも勉強しないと生き残れないと時代になって来ている気がします。
例えばフランスのように海外に活路を見出すのも一つだと思います。しかし販路を見出すと言ってもいい売り手がいればの話です。いい物を作ってもそれが良いって分かってもらえなかったら、それはいい物にならないんです。誰が飲んでも美味しい物って残念ながら無いんです。
今の人は皆さん頭がいいですから話せば分かります。味わい方が分かると言うか、どうして美味しいのかちょっと頭で理解させてあげると、より美味しく感じるんですね。その役割をしてあげる人がいないと、多少海外で有名になってもそれを先に伸ばし、維持するのは難しいと思います。
松井春澄:
やっぱり人なんですね。物販も人が命です。いい物があって、あとはいい売り手さんがいれば伸びます。
東條晃一さん:
工業的な物でないと自動的には売れないんです。中途半端な位置づけの物は確実に無くなっていく方向にあると思います。手作りを謳うならちゃんと手作りに徹した方がいいし、量産を謳うなら量産に徹した方がいい。半量産みたいのは難しいと思います。
松井春澄:
飲食店も大変だと思いますが、食物販も、細かいし利幅も少ないし大変なんですよ。
東條晃一さん:
分かります。とても大変だと思います。
物って、何か一つの物がちゃんと売れるまでにはすっごい時間がかかるんです。それにはまずお店の認知からなんです。
物販と飲食と違うのは、物販のほうが遥かに店舗数が少ないんですよ。だからあそこへ行ったら何々があると一度確立してしまえば、お客様の足は自動的に向かうようになるんですが、そうなるまでにはとにかく時間がかかります。
松井春澄:
その店はそういう使われ方をするんだといった軸が無いとダメですね。売り上げが出ないとすぐに商品をいじってしまうじゃないですか。そうするとまたお客さんが離れてしまう。迷いがあると、お客さんてラインナップですぐに分かってしまいます。よほどいい立地条件じゃない限り、お客さんは何か目的を持ってお店に足を運んでくれるわけですから。ここは何の店だろうって分かんなかったら足は向かないですよね。
東條晃一さん:
それは父にもよく言われるんです。いいなと思って入れても売れないとすぐに止めようと思うんですが、一度いいと思って入れたら続けなきゃダメだぞ、と。勿論間違っていたら途中で修正しないといけないんですが、こうやっていく、と決めたら諦めないで提案し続ける。またその事をより深く知る為に勉強を続けたり、人と会ったり。その商品の良さをよく理解していれば、必ずそれが良いって言ってくれる人が見つかるんですよ。そういう物をちょっとずつ増やしていくしか無いんです。
セレクトショップって結局商品が有名になる事じゃなくて、お店が有名になっていく事なんです。お店がブランドになっていく事なんですね。一見商品力のような気がするんだけど、ある一つの商品そのものが好きっていう人はそこまで多くはないし、もし爆発的に売ろうとするなら味を均一化するしかないんです。
そうでないならこういう小さな集まりをたくさん集めるしかない。そうすると今度はそれぞれのファンが、お店の支持者という大きな力になってきてくれるんですね。それがお店のブランドになっていくし、信頼にもなっていきます。商品を通してお店を知ってもらい、今度はお店を通して商品を知ってもらえるようになるんです。
松井春澄:
それを維持して続けていくのは大変なことじゃないですか。
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