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松井春澄×五反田の酒屋「内藤商店」の東條晃一さん(その2)

Toujou

東條晃一さん:
そんなに難しい話ではないんです。持って生まれて環境を生かしただけなんですね。

たとえば家が大工なら大工になってるし、なれるか分からないですけど、医者だったら医者になっていたと思います。家業を継げば、ゼロからやるよりももっといい事が出来る。
これをやっていなかったら本当は家具をつくる仕事をしたかったんです。物を作る仕事ってとっても魅力的だと思うんですね。でも売る仕事も、作る仕事と同じ位職人的な所があるんですよ。今もお客さんとお話ししてて面白いですよ。大変ですけど。

松井春澄:

業務店さんはどれくらい入れているんですか。

東條晃一さん:
ちゃんと取引している所は40ぐらいですね。僕たちは自分たちの出来る範囲を決めているんです。こういう仕事をしていると、売り上げを伸ばしてお店を大きくする事って、一見いい事のような感じがするんだけど、それって違うんだなって。酒蔵からから学んだんですけど、自分たちのクオリティを落としたら意味が無いんです。仕事って売り上げだけじゃないし、やりがいだけでもない。

たとえば配達も15分ぐらいの範囲でしかしないんですね。というのは、実際お店にきて欲しいからなんです。勿論電話やメールもします。でもインターネットや本で見るのと、実際に会って、物を見てもらうのとは全然違うんですね。

松井春澄:
お酒に限った話ではないですが、生産者に実際会って顔を見ると、物に対する想いも変わるし扱い方も変わりますよね。

東條晃一さん:
それは何でも一緒ですね。
お店屋さんが全部の生産者を回れない代わりに、僕たちが生産者さんの所を回っているんです。その時にいつも思うのは、物って作っている人の想いが出るんだなあって。で、その同じパッションの物と人をつなげると、物も人も生きるんです。

松井春澄:
私もそうだけど、生産者の想いを見てるから、それがお店でどういう扱いをされているのかが凄く気になります。そこを理解している酒屋さんって、なかなかいませんよ。

東條晃一さん:

あまりそんな大した事ではなくて、ただ作っている人の想いを知っているからあんまり乱暴には売りたくないなって、それだけなんです。それに手間をとられ過ぎている気もしますが。(苦笑)

松井春澄:
今って若い人がお酒を飲む量が減ってきていますよね。

東條晃一さん:
世界的な流れとして、お酒の飲まれている国でもアルコール度数が下がってきています。理由はよく分かりません。以前、有機ワインを作っているニコラ・ジュリという方とお会いしてお話ししたのですが、その方はルドルフ・シュタイナーという思想家の理論を元にしたワイン作りをされているんですね。月の満ち欠けを考慮して種を蒔いたり収穫の時期を決めたりするのですが、確かにそういった世界全体の大きな流れのような物はあるのだと思います。実際国や文化に関係なく、同じ時代には同じようなお酒のテイストがあるんです。僕達に出来るのは、その潮流に合わせながら、でもいい物を広め残していく事なんだと思ます。

松井春澄:
二十代の人とか、夜カフェなどではお酒を飲むそうですよ。安いお酒よりもきちんとしたお酒が好きみたいですし、飲まない訳ではなく、舌が肥えてきているのかも知れませんね。

東條晃一さん:

それはあると思います。むしろ若い人の方が味のジャッジが正確です。飲む量というよりお酒の飲み方が変わってきているのかも知れないですね。僕達がお酒を売るに当たって気にしているのは、味と値段のバランスなんです。うちの店にみえる若い人はベンチマークをお持ちの方が多い気がしますね。ジャケットも気にしないですし。

松井春澄:

外で飲むより家で飲む人が多いのかも知れないです。飲食店で飲むより酒屋さんで買って家で飲む方が安いですし。バブルの前と後の世代ではお金の使い方が違うように感じますね。

東條晃一さん:
確かに若い方の方が量的にはそれ程飲みませんし、飲み方は綺麗な気がします。うちは店売りが六割で、普通の酒屋さんとは逆なんです。お店は勿論の事、一般のお客さんも大事にしているんですが、OLさんとか、うちまでわざわざ足を運んで下さる若い人は少なくないですよ。

どうしてうちは店売りが多いかと言うと、飲食店の人が築地に野菜とかお魚を買いに行くような感じでうちに来てくれるんですね。またここは毎日普通に飲むのがあるから、今日はこんな食材があるんだけどとか聞いて頂ければ、これこれがいいとお勧め出来るんです。

松井春澄:

個店は想いがあって売るし、だから勧められる。その辺りの違いなんでしょうね。

東條晃一さん:
いずれにしても遅かれ早かれ酒造は淘汰されていくと思います。飲む人と飲まない人、お酒の趣向性がはっきりしてきてるように感じますし。戦後の作れば作る時代は終わって、お店でも酒造さんでも勉強しないと生き残れないと時代になって来ている気がします。

例えばフランスのように海外に活路を見出すのも一つだと思います。しかし販路を見出すと言ってもいい売り手がいればの話です。いい物を作ってもそれが良いって分かってもらえなかったら、それはいい物にならないんです。誰が飲んでも美味しい物って残念ながら無いんです。

今の人は皆さん頭がいいですから話せば分かります。味わい方が分かると言うか、どうして美味しいのかちょっと頭で理解させてあげると、より美味しく感じるんですね。その役割をしてあげる人がいないと、多少海外で有名になってもそれを先に伸ばし、維持するのは難しいと思います。

松井春澄:

やっぱり人なんですね。物販も人が命です。いい物があって、あとはいい売り手さんがいれば伸びます。

東條晃一さん:

工業的な物でないと自動的には売れないんです。中途半端な位置づけの物は確実に無くなっていく方向にあると思います。手作りを謳うならちゃんと手作りに徹した方がいいし、量産を謳うなら量産に徹した方がいい。半量産みたいのは難しいと思います。

松井春澄:

飲食店も大変だと思いますが、食物販も、細かいし利幅も少ないし大変なんですよ。

東條晃一さん:

分かります。とても大変だと思います。
物って、何か一つの物がちゃんと売れるまでにはすっごい時間がかかるんです。それにはまずお店の認知からなんです。

物販と飲食と違うのは、物販のほうが遥かに店舗数が少ないんですよ。だからあそこへ行ったら何々があると一度確立してしまえば、お客様の足は自動的に向かうようになるんですが、そうなるまでにはとにかく時間がかかります。

松井春澄:

その店はそういう使われ方をするんだといった軸が無いとダメですね。売り上げが出ないとすぐに商品をいじってしまうじゃないですか。そうするとまたお客さんが離れてしまう。迷いがあると、お客さんてラインナップですぐに分かってしまいます。よほどいい立地条件じゃない限り、お客さんは何か目的を持ってお店に足を運んでくれるわけですから。ここは何の店だろうって分かんなかったら足は向かないですよね。

東條晃一さん:   
それは父にもよく言われるんです。いいなと思って入れても売れないとすぐに止めようと思うんですが、一度いいと思って入れたら続けなきゃダメだぞ、と。勿論間違っていたら途中で修正しないといけないんですが、こうやっていく、と決めたら諦めないで提案し続ける。またその事をより深く知る為に勉強を続けたり、人と会ったり。その商品の良さをよく理解していれば、必ずそれが良いって言ってくれる人が見つかるんですよ。そういう物をちょっとずつ増やしていくしか無いんです。

セレクトショップって結局商品が有名になる事じゃなくて、お店が有名になっていく事なんです。お店がブランドになっていく事なんですね。一見商品力のような気がするんだけど、ある一つの商品そのものが好きっていう人はそこまで多くはないし、もし爆発的に売ろうとするなら味を均一化するしかないんです。

そうでないならこういう小さな集まりをたくさん集めるしかない。そうすると今度はそれぞれのファンが、お店の支持者という大きな力になってきてくれるんですね。それがお店のブランドになっていくし、信頼にもなっていきます。商品を通してお店を知ってもらい、今度はお店を通して商品を知ってもらえるようになるんです。

松井春澄:
それを維持して続けていくのは大変なことじゃないですか。

東條晃一さん:
お客様の欲求は多種多様なので、うち一店で全てに応える事は出来ないんですよ。だからこちらのいいと思う物と、お客さんの欲求との兼ね合いを見ないといけない。それにはたくさんの物を見ないといけないんです。物を売るのって、その商品だけいくらよく知っていても全然売れないんです。

松井春澄:
お客さんも詳しい人が多いのではないですか?。色々と勉強されて来る方が多そうですね。

東條晃一さん:

詳しい方は多いですよ。でもそれは部分的なんです。それにそういう方達は知りたい欲求があるから、他の切り口で出してあげると横へ広がり易いんです。それがまた店の信用になるんだと思います。

松井春澄:
またお話が戻ってしまうのですが。酒造にあたる時ってどのようにするのですか?。

東條晃一さん:

元々僕たちの業界ってそれほど広く無いので、同業者同士でよく情報交換しているんですね。でもお酒の世界って早い物勝ちな所があるので、結局新しい所は自分で探すしか無いんです。その情報って言うのは、例えば物産展とか、もう色んな所から見つけてきますけど、一つ言えるのは、飲食店で見つけて来ることはほとんどないです。

松井春澄:
飲食店に並んでる頃にはもうかなり広まっているし。

東條晃一さん:
そう。それに飲食店の人は身銭を切って飲んでいる訳ではありません。一般の人は身銭を切って飲んでいるので、評価がシビアだし、よっぽどいい情報をお持ちです。僕たちは飲むプロって呼んでるんですけど(笑)。

でも最終的にはその酒造へ行けば、8割9割分かりますね。そこのお酒を飲んだり、実際に作っている現場を見なくても、たたずまいなどを見るだけで分かります。

松井春澄:

分かります。においというか、空気感と言うか。飲食店でもそうです。お店に入った瞬間に、あ、これ美味しい物はちょっとむずかしいかなっと。(笑)場数を踏んでると何となく分かりますよね。

東條晃一さん:

そうそう。(笑)きちっとした理屈がある訳ではないんですよね。

ただ、ほんのちょっとした事でよくなる所って意外と多いんですよ。例えば、酒造さんたちは作る事に関してはプロなんですけど、自分の所しか知らないんですよ。他の酒造さんと比較するどころかよそのお酒を飲んだ事も余り無いんです。自分の信じている、作る物に対するこだわりが満たせれば、満足してしまう人が多いんです。だから「いやー、こんなに複雑なお酒は売れないですよ」って言ってあげないと、それが複雑すぎる事もわからないんですよ。

松井春澄:
不安にならないんですかね。

東條晃一さん:

作っている物に対してではなく、売れなくて初めて不安になるんでしょうね。基本的に酒造は地場の物で、遥か遠くへ売る事は想定してないんですよ。今でもその癖が残っていて、だから他との競合という事は頭に無いんですね。僕たちは色んな酒造さんを見てきてるし、色んな種類のお酒も見てきているから、どういうお酒が作りたいのか聞けるし、逆にこういうお酒を造って欲しいって言えるんです。

先日も行った小さな酒造さんで、もの凄く美味しい焼酎を作るんですが、昨年はよく売れて、そのお金で新しい蒸溜機を買いたいって相談を受けたんですね。慌てて、蒸溜機を変えちゃダメですよって。もう絶対変えちゃダメって。

松井春澄:
だめだめ。(笑)

東條晃一さん:
私はそこの酒蔵を見て知っているのですが、シンプルで本当に原始的な蒸溜機を使っているんです。でもそれがいいんです。

松井春澄:

それを変えたら味は変わってしまいますよね。

東條晃一さん:

本当に変わってしまうんです。変わっちゃうから変えちゃだめですよって言わないと、変えちゃうんですね。職人さんだから、もっといい物を作りたいんです。でもその独自性のよさが失われたら意味がないんです。

僕たちのお店で、お客さんにいい買い物をしたなって思ってもらえるのと同じ様に、酒造さんにも、僕たちと取引していい取引したなって思ってもらいたいんです。僕たちは中間業者だから、真ん中にいて上に対してもしたに対しても両方の仕事をしないといけないんですね。作る人と売る人と飲む人が三位一体ってそういう事なんだと思います。

松井春澄:
私も調理人ではないし、食べるプロではありますけど。(笑)

東條晃一さん:

いや、凄いと思いますよ。松井さんの方が見ている幅が広いし、酒屋と酒造のまた一歩外の中間にいるじゃないですか。だから松井さんとお話ししていて得る物が凄い一杯あるんですよ。

確かにお客さんから学ぶ物って一杯あるし、でもお客さんが知らない事も一杯あるし、両方で一緒になって美味しい物を見つけようというスタンスがないと、どちらか一方だけでは上手くいかないですよね。

松井春澄:

提供する側とされる側が、お互いに補いあわないと。美味しい物を持ってきてって言われたって、じゃあ何をもって美味しい物なのかって、わからないですしね。

東條晃一さん:
そうなんですね。
だから「お勧めはどれですか」って聞かれても。(笑)どれもお勧めなんだけど、この人はどういうのが好きなのかって話をしながら段々探りを入れていくんです。で、最後お客さんが帰る時に、今度感想聞かせて下さいねって。次にまた来てくれたらしめた物です。あんまりはずし過ぎると、来てくれないですから。(笑)

一般のお客さんって味に対するボキャブラリがそれ程ほどいんですね。ただ辛いの、だけでは分かりませんから、例えばどこの銘柄が好きで、誰と何処でどういった時に飲むのかとか、好きな食べ物はなんなのかとか聞いて、総合的に判断していく事が多いですよね。

松井春澄:

勧めるってすごい大変な事ですよね。

東條晃一さん:
そうですよね。難しい事だとおもいます。

松井春澄:
私も毎日お店を何軒も行っていたので、どこかいいお店知らないかとかよくきかれるんですけど、誰と行くのか、例えば彼女と行くのか、その彼女もつきあい始めてすぐなのか、十年ぐらい経っているのか。お店のムードがいい所がいいのか、内装よりも味にこだわるのか、とか色々聞きだして。プライドもあるし、十五年も仕事していてこんな店紹介されたとか言われたくないし。(笑)

こればっかりは見てきてもまね出来ないですからね。同じ物を置く事は出来ても、売り方とかはまね出来ない。

東條晃一さん:
本当にそうですよね。参考程度にはなるのかも知れないですけど。
大手の同業者の方が時々いらっしゃるんですけど、一ヶ月ぐらいするとうちと同じ物が売られているんです。まねしても売れないよって思っていると、半年もすると無くなっているんですね。物販って物を作るより易しいのかって思っていたんですけど、自分で想像していたよりずっと、やればやる程難しいですね。何がいいのかも分からなくなって来てしまう事もありますし。

松井春澄:
私はお店の立ち上げや、新しい商品を入れ替えたりしても、毎日そのお店にいる訳ではないんですね。現場にどうしても任せるしかないのですが、現場にそれだけの想いが無いと陳列の仕方とかどんどん乱れて、付加価値がある物も無くなるし売れる物まで売れなくなってしまう。

東條晃一さん:

人が代わってよくなる時もあるんですが、そこまで初期設定に時間は裂けないんですね。それだったらもっと積み重ねのある事をやりたいんです。そうして気が付いたら、作ってる酒造さんも取引している飲食店さんも小さい所ばっかりでした。

松井春澄:
やりたい事とか、お店のコンセプトとか、想いが相通じる人と商売されてるという感じなんでしょうね。基本的に長くつきあえるという事を考えると個店になってしまいますよね。

東條晃一さん:
今やりたいのは古典の個店なんです。長く続いている所には、長く続いているだけの意味があるんです。もちろん新しい所には新しい所なりのよさがあるんですけどね。大概そういう所って一代限りが多いんですけど、代を重ねていってる所って継いでいっている物があるから、物の見方がブレて無いんですね。

松井春澄:
だから長く続いているんでしょうね。基本的な考え方が地に着いてるから、時代と共に変わっているようでもぶれてないんですね。

中目黒に丸30、40年やっているべたべたな居酒屋さんがあるんですが、客層がサラリーマンのおじさんから若い子まで混在していていつ行っても一杯なんですよ。そういう所って何か魅力的で、また勉強させられる物があるんです。
例えば古いいい居酒屋って何処かありますか?。

東條晃一さん:

色々あるんですが、例えば人形町とか神保町とか、下町の所は多いですよ。酒屋って西の方とか中央線沿いに多いんですよ。東側にはあんまりテーラーさんが多く無くて、だから協力したいんですけど、さっきも言った様に15分以上かかるところは厳しいし。ラベル売りするんじゃなくて、それに共感してくれる人と出来たらいいなって思っているんですが。

僕たちみたいな酒蔵をまわった人間が直接配達してお店を見て、冷蔵庫に入れちゃだめとか、水割りのやり方とか行く度に言うんですよ。またね、迷惑とは思いながら営業時間のまっただ中に行くんですよ。本当は良く無いんですけど、どんな人が来てるかとか、どういう対応をしているのかとか見たいんですよ。そうすればお店の活気だとか、何処を直した方が良いとか見れますしね。

松井春澄:
飲食のコンサルタントが出来ますよ。

東條晃一さん:

松井さんみたいな規模の所は出来ないんですよ。飲食店さんも自分のお店をやり繰りしなきゃならないし、他を見る余裕がそれほどある訳ではないですから。その点僕たちは、あっちではこうやってますよ、こうやったらどうですかって言ってあげられたりするんです。それは酒蔵も同じなんですね。逆に酒蔵へ行くと、あそこの酒屋さんはこうやってたよって教えてもらえるんです。お互い、あそこと取引してよかったなって。(笑)

父にも言われるんですけど、物販の仕事は物で繋がらない様にしないといけないんですよ。物で繋がるとすぐに終わってしまうんです。その辺の見えない所を感じとっていかないと行けないですし、大きな会社よりも個店の方がそういう事を大切にしてくれるんですね。

松井春澄:
同じ買うなら内藤さんの所で買おう、というような事ですよね。

東條晃一さん:
 
そういう事なんです。業界の話になってしまうんですが、こだわった物では売り上げって上げられないんです。こだわってない物で売り上げを上げるんですけど、どこで買っても同じならって。

松井春澄:

買う時に情報やアドバイスが付いてきたりね。

東條晃一さん:
そうです。何か買うついでに、とか。人の買い物って習慣性があるから、一回そこで買う様になり始めるとずっと買う様になるんですよ。何かいいお酒を買おうと思っている時に、うちの名前が浮かぶ様になって来ると、結構それ以外のオーダーも丸ごと来たりするんです。それでもビールは重いし場所が無いから、嫌だって断っちゃう事が多いんですけどね。(笑)
でもね、まだ仕事やって10年ぐらいですけど、本当にお客さんから教えてもらう事って、多いです。

松井春澄:

ご自分で勉強するよりも?。

東條晃一さん:
遥かに多いですよ。僕ね、気が付いたんですけど、当たり前の話かも知れませんが、いいお店にはいいお客さんが付いてます。駄目な飲食店には駄目なお客さんが付いてるし、駄目な酒蔵には駄目な飲み手が付いているんです。お客さんの何を以って善い悪いと言うか、その定義付けは難しいしいんですが。最終的に自分がきちんと決まってないと、そういういいお客さんも来てくれないです。例えば安く飲ませてあげようとか何でも、何か大枠でいいから持ってないと、選ぶ物もちぐはぐになって来るんですよ。何てことのない他愛無いようなお店であっても、長く続いているお店にはそういう物があるんですよ。

松井春澄:

筋と言うかね。

東條晃一さん:

結局僕たちが扱っているお酒も、最初から東京へ出す事を前提にお酒を造っているんじゃなくて地元密着の、作り手さんが造りたい物なんですね。またそういう自分がいいと思って作っている人の方が、いい物を造っているんですよ。もちろん試行錯誤も凄い大事なんだけど、あーだこーだいつまでもやっている所よりも、基本的には普通酒でいい物を、きちんと造っている蔵がいい蔵なんです。

お酒を見る時に、純米酒を見なさいって言われるんですよね。その蔵がどこまで普通の仕事をきちんとやっているか、手を抜かないでちゃんとやっているかを見るのは、地元向けの安いお酒なんです。そういう物でいい物造ってる蔵は味がぶれないんです。上の物もいい物を造ってるんです。

仕事の丁寧さとか、人格的な事もあると思いますが、松井さんが先ほどからおっしゃっている様にぶれないという事なんだと思います。こういう方針で造っていくっていうのがしっかりしていて、職人としてこういうのは出せないって何かゆずれない物をもっている所はいい蔵なんだと思います。

松井春澄:
お酒に限らず物作りって何でもそうなんですけど、何か一品試食すると他も大体同じなんですよね。

人の想いがでますよね。一品食べて美味しいのは間違いないし、これはちょっと…と思うのは大体全部そのトーンですよね。味の癖なのか作り方の癖なのか。

東條晃一さん:

分かります。お酒を見るときに何を見るかって言うと、お酒の個性を見るんですね。なんだか迷っているような、甘くも辛くも無い物って駄目なんです。お酒の個性がはっきりしているっていうのと、あとはバランスですね。この二つが揃っていればお酒ってそんなに駄目になる事は無いんです。それがまた難しい所なんだと思いますけど。

松井春澄:
飲食店もバランスなんですね。味だけよくても駄目だし、デザインばっかり凝っても駄目だし。完全にこだわりを持って特化しているっていうのはまた別ですけど。

東條晃一さん:
実際お店にアドバイスをする時にやり過ぎちゃう事ってあるんですよ。お酒ばっかり良くて、メニューのバランスを崩しちゃう。結局お店の人が売る訳だからその人が理解してる範囲で提案してあげないといけないんです。

松井春澄:

分かります、想いがあるからこれもあれも入れてあげようって。でも料理人の力量もあるし、お店の位置づけもあるし。

東條晃一さん

本当は松井さんみたいな人がいて、すりあわせて丁度良くなればいいんでしょうけど、個店の悩みどころは料理とお酒と一人で両方できなきゃいけない事なんですね。ある程度人数がいて体制が整っているんじゃないと、フォローするにしても仕切れないんですね。

松井春澄:
お父さんが今までやって来たれて、またこれからやろうとしている事と、東條君が、自身これからやりた事ってありますか。

東條晃一さん:

基本的に父も祖父もまたそうなんですけど、前にやっていた事に乗っていって自分なりにアレンジしていくのが僕たちのスタイルなんです。全く新しい事をやろうとすると、一度壊さないと行けないですけど、そんな事をしていたらお客さんが困ってしまう。新しい事をやろうという気は全くないんです。

松井春澄:
今ある事をベースにして、工夫を重ねていこうと。

東條晃一さん:

そうです。時代に合わせることも必要なんですけど、今の事をより極める方向に向かっているんです。父ともよく話をするのですが、僕たちは売る職人なんです。酒屋さんが明日から全く違う職人さんにはなれないんです。
あとは自分の生活と仕事のバランスがあるから、例えば将来ロンドンへ出店しよう、とかは全然ないんです。仕事の時間を増やしたいという気持も無いんですね。そんな事を言って5年ぐらいしたら全然変わってたりして(笑)

松井春澄:

でもお父さんにとっては理想的な後継者ですよね。

東條晃一さん:

いや、そんな事無いんですよ。人数が少ないから船頭が二人いると崩壊するんですよ。だからうちの父が祖父の代がやっていた時はやりたい事を我慢していたように、僕も父がやっている間は我慢しなければいけないんです。僕が我を出すと店の雰囲気が悪くなって店がまわらなくなるんです。

商人というのは普遍的でないんです。その時その時に会わせていかないと。何か完成形がある訳ではない。味ってファッションと一緒じゃないですか。はやりの味ってあるからある程度そういう物を感じていかないと、僕たちは駄目なんですよ。それを感じるアンテナを持つことです。あとは提案する側にまわる事です。お酒って先行者利益の所が大きいから、後からやったんじゃ駄目なんですよ。先に先に、一歩でなくていいんです。半歩でいいんです。

松井春澄:

仕掛けるときもあるんですか?。

東條晃一さん:
いっぱいありますよ。昨年も焼酎の取材が来てずっと話してました。書く人って文章を書く事はプロですけど当然お酒のプロではないですから。お酒の事を理解してもらわないといけないし、それは僕たちの役割なんです。僕たちの発進してるのって店の半径どれくらいか、わずかな範囲ですけど、マスコミの方ってとてつもなく遠くまで声を届かせられるじゃないですか。さっきも言ったんですが、いい事をやっているのにお店の経営が成り立たないがゆえに、止むに止まれずやっている蔵って多いんですよ。いい考えも持っていて設備も技術も持っている。でも現状として売れていない。

いい物を造ってくれたら、僕たちが色んな所に届く様にしてあげるから、またマスコミの人にも、発信して下さいねってお願いするし。ある意味四身一体なのかもしれませんね。

お酒を飲まないのは、いいお酒にあたってないだけなんです。いいお酒を飲んだら必ず好きになるって確信してますから。うちの父にも良くい言われます。おまえ以外全部お客さんなんだから、売れない訳が無いって。

松井春澄:

最後にお聞きしたいんですけど、お酒の今後のはやりってどんな風になりそうですか。あと、一つのブームってどれくらい続きますか。

東條晃一さん:
一つのブームが盛り上がるのに五年、盛り下がるのに五年です。その前に本当は、盛り上がって来る前段階が更に五年あるんですけど、まあ世に出てきてから五年ですね。そうすると酒蔵がだれて来て、業界自体に創造性が無くなって来るんです。そうすると困窮している新たな業界から、いい物がでて来るんです。例えば芋焼酎は、落ち目になった日本酒からアイデアをとって新しく出てきたんですよ。新しく出て来る物って言うのは、前に流行っていたお酒のエッセンスは必ず踏襲しています。全然違う所からポコッて出ては来ないんです。

今後の傾向として、爆発的に売れる物が出て来る事は無いと思います。業界全体として芋焼酎や麦焼酎が流行るとかそれはありますよ。でもお客さんみんな勉強してますし、お酒の趣向品としての位置がより高くなって来ています。お客様の好みが細分化し過ぎているんです。またそれに応えるだけのアイテム数があるんですよ。流行っているものはそれはそれで美味しいけど、私はこれが好きという方がどんどん増えてきています。

一度大きくなるとなかなか小さくなれないんです。ブームっていつかは終わりますから、大きくしたあとに小さくする事ってとっても大事なんですね。こんな事言ったら偉そうですけど、大きくしたり物を売る事ってそんなに大変じゃないんですよ。だけど大きくしない事ってとっても難しいんです。酒蔵にしても、凄く売れている時に増産しないのって勇気がいるんです。でもそこで勇気を持って判断出来る蔵って言うのは僕たちがつきあっていける蔵なんです。酒造の人が、自身本当に造りたいものや、向かっているお客さんがきちんと分かっている。だから大きくしないっていうのは多分僕たちが見ている範囲ではキーワードですね。売れるんだけど、小さくしておくんです。

松井春澄:

味的なブームはどうですか。例えば一時ブームになった時に一番最初に飲んだ時のイメージと今のイメージが全然違う気がするんです。全部同じような味になっていると言うか。

東條晃一さん:

それはクラフトマンシップが無いんです。業界がだらけると言う事はそういうことなんです。味が変わってきてしまうんですね。最初飲んだ時はどこも一番いい物を出して来るんです。それがそのクオリティーで続けられるのが重要な事なんです。でもこれだとたくさん作れないし、より売れる様にする為に、個性をちょっと少なくして、飲み易くするんです。それは作っている人はそんな事はしないんですよ。我々酒屋がさせるんです、させたんです。でもそれは間違った方向なんです。味の分かるお客さんには味が変わったって分かるんですよ。でも一般の、もっと多くのお客さんには売れる様になる。

味が均一になってきてしまうんですよ。それが業界全体に広がって来ると、面白みが無いし魅力も無いから、お客さんがよそへ移っていってしまうんですね。

松井春澄:

飲食店の話を聞いているみたいです。すごくかぶります。人がやっている物は全て同じような法則が働くのかも知れないですね。

東條晃一さん:

僕たちがどうして小さい酒蔵とか、小さい作り手と付き合うかっていうと、会社じゃないからなんです。僕もこれから業界で30年40年やって、また次の世代に継いでいきたいんですね。荘考えた時に、会社じゃない所って言うのは責任者がいるから、そういう所は今だけ良ければいいとか、売り逃げしちゃえとかめちゃくちゃな事をしないんです。だからいいなと思う所は必然的に小さい所になってしまうんだと思います。

松井春澄:

最後がたくさんになってしまったんですが、今後育てたいと思うようなテイストなどはありますか。

東條晃一さん:

一つは普通酒です。もう一つは熟成酒。まあ古酒ですよね。方向は逆ですが。
日本はフレッシュな文化なんです。ビールとか新酒とか何でも新しい物、新鮮な物が喜ばれる。酒蔵からよく5年前のお酒があるんだけどどうしようみたいな相談を受けるんです。でそのサンプルを飲んでみるとすごく美味しいんです。こんなに美味しいのに、酒蔵は売れないって思っているんですよ。確かに新しい方がいい物もありますけど、お酒に関しては決してそうではないんですよ。5年前のワインだから飲めないなんてこ事はないですよね。日本酒だってそうなんです。

普及していかないと酒蔵が可哀想だと思います。酒蔵って仕事が大変な割に利幅か少ないからなんとかしてあげたいんです。いい普通酒で経営の基盤を作って、そのお金で熟成酒を造って寝かせる。

松井春澄:

やる事が一杯ですね。

東條晃一さん:
まだ日本には熟成酒がたくさん眠っているんです。

松井春澄:
日本全国宝探ししないと。(笑)

東條晃一さん:

行脚し無いといけないですね。(笑)

松井春澄:
今日は本当に有り難うございました。
お酒買って帰ります。(笑)

[今回のゲスト]

東條晃一(とうじょう こういち)さん

酒屋「内藤商店」四代目

1973年生まれ。明治創業の酒屋で、都内でも数少ない焼酎の専門店「内藤商店」(東京・五反田)の四代目。25歳で家業を継ぐ。本ではわからない 酒の勉強をする為日本酒蔵、焼酎蔵、仏ワイナリーで酒造りに携わる。現在でも毎月の蔵まわり、酒の原材料を生産する農家まわりは欠かさない。2005年仏 ボルドー地区よりシュバリエの称号を授与。「酒造りは人作り」の思いから、現在はホスピタリティーについて勉強中。

[案内人]

松井春澄(まつい・はるみ)
(株)食楽 代表取締役社長

静岡県生まれ
1990年、飲食店の総合コンサル企業会社、株式会社ミュー・プランニング&オペレーターズに入社。 様々な飲食店の業態開発、メニューコーディネートの仕事に従事。       
2006年5月に独立、株式会社食楽を設立。
現在は、レストラン、居酒屋、ファーストフードなど異なる飲食店業態からスーパーマーケット、食物販のコンセプト提案など幅広く手がける。

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