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松井春澄×国産無添加生ハム名人・尾島博さん(その2)

尾島さんの生ハムづくり(つづき)

03

カビが生えた状態で常温の室に移す。
「めがね」と呼ばれる寛骨(かんぼね)をあとで抜く。
この骨の裏には空洞があり、そこに血だまりが
できて腐敗するためだ。防腐剤を添加しない
生ハムづくりには、この骨抜き作業が欠かせない。

04

1階で5~6ヶ月熟成させた後、2階で
熟成させる。1階より2階のほうが
1~2度室温が高く、発酵が進む。
製造は春夏秋冬、四季を経験させ、
次の夏を越したら2年ものの出荷の
時期。さらに年数を熟成させるものも。

対談 その2-------------------------------------

尾島さん まあ、百姓っていうのは、すごいですよね。

松井春澄 尾島さんのHPで飲食店も農耕型経営じゃないとダメだと書いてありましたけれど、私もまさにその時代だと思う。店がお客さまを育てる、お客さまが店を育てる。

尾島さん 農耕型マーケティングは、何事も時間と手間がかかるってことをわかることですよね。どんなビジネスも。飲食店は地域社会の核になることができるんですよ。これからはそういう観点が必要じゃないかなあ。地域で集まって食べられる場所。それがレストランでしょ。

潮流となるキーワードは常に変わってきている。いまなら「健康」「サスティナビリティ」「環境」が中心。あとは「省エネ」。
その時代の上昇気流は何かを探す。読みが必要ですよね。
いまでもそういう意識で世界中のネットを見てますよ、私は。何とか言葉はわかりますので。

松井春澄 それがすごい。体も動くし、遅くまで飲めるし(笑)。

尾島さん ははは(笑)。サッカーが大好きだから、最近はユーロカップで3時にはじまったのを朝5時まで起きて見てた。週1回泳いでテニスもやって。で、さすがに飲む元気がなかったけど(笑)。

松井春澄 遊びすぎ(笑)。

ところで、いま卸しているレストランは何店?

尾島さん 常に100店舗ぐらいはありますね。つきあいが長い店もありますね。

松井春澄 物販は麻布のナショナルスーパーさんに卸してますね。

尾島さん 生ハムはね。あと麻布の酒屋さんでブロック状にカットしたものを売ってます。スライスしたものをパックすると本当の生ハムの味が出ないと思う。

松井春澄 ブロックは、パスタに入れたりすると本当においしいですよね、味が濃くて。一度食べるとどこで食べてもわかるんですよね、尾島さんの生ハムは。舌が覚えている。

尾島さんは今後ハモン・セラーノがどうなっていくと思われます? 最初はあまりメジャーじゃなかった生ハムが、イベリコ豚が来て、だいぶ認知はされてきたと思うのですが。

尾島さん 生ハムというのは、豚の種類によって味が違う。試食していただいても違うのがわかると思います。熱意ある畜産業の方の豚を世に出すという考え方ですね。

私は、技術は持ってないんですよ。生ハムのエキスパートといわれることもあるけれど、そういうことじゃない。ただ、いくらか素材に環境を与えてあげているだけ。いい素材があれば、それが自然にいい生ハムになるような環境を整える。そういうもんです。料理人とは違うね。自分がつくるもんじゃないと思っている。

松井春澄 とはいっても、生ハムは生きもの。常に見ていてあげているでしょう? 誰にでもできることじゃない。

尾島さん 素材が悪ければだめになる。いい素材を見極めることは必要。でも、肉を見ただけではいい生ハムになるかどうかわからない。

松井春澄 育つから。

尾島さん その通り、生ハムは育つものだから。

ちょっと上手な表現はできないけど、なんかそんな感じですね。

でも、毎日見ていると、見えなくなっちゃう。
毎日見ていた時もあるけど、仕事をやることがないから、かえっていじっちゃう。いじると悪くなっちゃうんですよね。放置が大事。

松井春澄 植物を育てるのに似てますね。手をかけすぎちゃうと枯れるし、放置しすぎても枯れちゃうし。

尾島さん そうなんですよ。いまは週に3日間ぐらい工房に来る。かといって、よく見るわけでもない。何かあっても放っておく。そういう心構えが必要です。

松井春澄 ある程度長年やってないと、その境地まではいかないのでは。

尾島さん ええ、そうですね。ずいぶん失敗もしました。まだ完成したわけじゃないしね。終わりはないんですよ。人様の製造委託を始めたのがこの2年ぐらい。工程は見た目シンプルなんだけど、シンプルなほうが難しいんだよね。

独学の連続でしたね。生ハムのために昆虫学の勉強もした。
いまの時季はカツオブシムシがついたり、ダニがつく。小さいのがいっぱい。人類は虫との闘いですからね。で、飽きなくてここまで来ちゃった(笑)。

うまい生ハムをつくるには大量生産(加温乾燥)をしないで、自然熟成をすることですね。ブームになったので、大量生産をしているものも多く見かけます。実 は一度、巷の生ハムについて本を書こうと思ったこともあるけど、ブームのいまだと批判本になってしまうので、やめました(笑)。

松井春澄 生ハムの正しい知識を持っている人は、少ないですね。

尾島さん ブームに踊らされないでほしいとは思いますが・・・。
生ハムは血抜きが悪かったり仕上げの横骨を抜かなかったりしたら、すぐに腐るから、手を抜く大量生産メーカーでは防腐剤を使うんですね。輸入されているものにはよく見ると書いてありますよ。

松井春澄 うーん・・・。

尾島さん いい生産者もいますよ。国内では最近、長野県南アルプスの大鹿村というところで、若い女性の豚生産者がいるんです。まだ30代前半かな。1年ぐらい世界を放浪して、やっぱり自分は畜肉の仕事をしたいと言って、いま私が生ハムのつくりかたを教えてあげているところなんです。

そんな方も出てきているんですよ。
同じように地元でもつくって、報告をくれてます。
自分で買って屠畜して、生ハムつくるだなんて、すごいよね。

松井春澄 頼もしいですね。若い人が興味を持ってやってくれるなんて。

最後に、30年続けてきた秘訣を教えてください。

尾島さん 待ってる人がいるから、やらざるを得ない(笑)。あははは。

私だって挫折したときがあります。生ハムの輸入が解禁になった時には、私の役割も終わったと思ったこともあったし。でも、輸入品をいろいろ調べて、無添加 の生ハムを扱いたいと手紙を出したら、一通も返信が来なかった。ああ、やっぱり日本人の健康のためにつくらざるを得ないか、という意気で、いまでもやって います。

松井春澄 これからもぜひ、おいしい生ハムをつくってください。今日はありがとうございました。

 

05

生ハムのタグには豚の品種とともに
「添加物は一切使用しておりません」
の表示を明記している。尾島さんの誇りだ。

06

生ハムホルダーのいろいろ。中央が
外国産のオーソドクスな形状だが、
ハムに金属を刺さなくてもいいように
尾島さんは自分でホルダーも工夫して
つくっている。右がセラーノ特製ホルダー。
左はその進化形。

 

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[今回のゲスト]

尾島 博 (おじま ひろし)さん

1936年生まれ。
在欧約5年。ビジネスコンサルタントとして活躍するかたわら
趣味として、地中海・中南米の比較食文化史に興味を持つ。同時に分用に生ハム・腸詰作りを始めたのが契機となって事業化に至る。事業暦30年。この間出荷した生ハムの数は4万本近くを数える。現在は自給率を高める為各地の村興し運動に参画中。
http://www.serrano.co.jp/

[案内人]

松井春澄(まつい・はるみ)
(株)食楽 代表取締役社長

静岡県生まれ
1990年、飲食店の総合コンサル企業会社、株式会社ミュー・プランニング&オペレーターズに入社。 様々な飲食店の業態開発、メニューコーディネートの仕事に従事。       
2006年5月に独立、株式会社食楽を設立。
現在は、レストラン、居酒屋、ファーストフードなど異なる飲食店業態からスーパーマーケット、食物販のコンセプト提案など幅広く手がける。

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